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シチズンという社名の由来とは?

“世のなかってのはね、わかりきっていることだらけなのさ──だれひとりそれについて、多少なりとまともに考えてみたことがないというだけのことでね”『バスカヴィル家の犬』シャーロック・ホームズ・シリーズ(深町眞理子 訳)より

人は特定の分野をどんなに長く書いていても(私の場合、それは時計でキャリアはかなり長い)、必ず見落としていることがあり、なかには信じられないくらい長いあいだ気が付かないこともある。私は小学3年生の時に『シャーロットのおくりもの』を読んだが、登場する農家の一家が“アラブル”家と呼ばれていることに気付いたのは、それから50年ほど経ってからだった。わが家ではこのように明らかなことに遅れて気付くことを“アラブルの瞬間”と呼んでいる。

日本の老舗時計メーカー、シチズンを例に挙げよう。私は長年シチズンの時計を愛用しており(スカイホーク、エコ・ドライブ プロマスター タフ、そして最近リリースされたツノクロノなど)、これまでにも幾度もシチズンについて書いてきた。特に近年ではエコ・ドライブ キャリバー0100が発売されたことが記憶に新しいが、これはもう一度おさらいする価値のある時計だと思っている。

 エコ・ドライブ キャリバー0100は2019年のバーゼルワールドでデビューしたが、なぜ時計業界がもっと騒がなかったのか、ずっと不思議に思っていた。これは光発電で駆動する時計でその精度は何と年差±1秒だ。モバイル端末が原子時計並みの精度を当たり前のように享受できる現代だからこそ、あまり話題にならなかったのかもしれないが、これらは国が管理する時報の原子時計から発信される時刻信号に依存する、言わば寄生的な機器である一方、この時計は無線などの外部の時刻信号にまったく依存しない。

 以上のように、シチズンは時計製造における技術革新の先駆者としての長い歴史を歩んでいるためか、歴史の浅いメーカーのように感じられる。技術革新の数々には、おそらくシチズン愛好家以外にはあまり知られていない世界初のチタンケースウォッチも含まれる。これは1970年に発売されたシチズン X-8 コスモトロン・クロノメーターで、酸化銀ボタン電池で駆動する電磁テンプを採用した非クォーツの電子式時計である。


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